映画『ミスティック・リバー』あらすじ・解説・レビュー

こんな方へ
・社会に息苦しさを感じている人
・自分を見失いそうな時
・怒りや憤りを感じる時
〔 こんな方は控えてください… 〕
・心に余裕がない人
・暗めの映画が苦手な人
本サイトでは気分や目的別にカテゴリー分けをして作品をご紹介してします。他の作品も是非ご覧下さい

作品情本・あらすじ
- 作品名(原題):ミスティック・リバー(MYSTIC RIVER)
- 制作年度:2003年
- 上映時間:138分
- 監督(制作国):クリント・イーストウッド(アメリカ)
- 主な受賞歴:アカデミー賞(主演男優賞・助演男優賞)
疎遠になっていた3人の幼馴染が、一つの事件をきっかけにひとりは被害者の父、ひとりは容疑者、ひとりは刑事として再会する
1977年。アメリカ、ボストン近郊にあるミスティック川沿いにある小さな町のイーストバッキンガム。
当時11歳で、近所に住んでいた幼馴染の少年ジミー・マーカス(以下、ジミー)、ショーン・ディバイン(以下、ショーン)、デイブ・ボイル(以下、デイブ)は、今日も道路沿いでホッケーをして遊んでいた。
ある時、排水溝にボールを落とし手持ち無沙汰になったジミーが、施工中のアスファルトを見つけ自分の名前を刻み始める。
ジミーに触発され、ショーンとデイブも名前を刻もうとするが、彼らのいたずらを発見した見ず知らずの大人の男が「公共の歩道に何をやっている」と叱りつけ、“家に行って親に話す”ということを名目にデイブ一人を車に乗せて、どこかに連れ去ってしまう。
後にこのことを話を聞いた大人たちが、デイブを連れ去った大人たちの行動を不審に感じ警察に通報するが、デイブは4日間監禁され、性的虐待を受けてしまうのだった。
デイブは自分の力で何とか逃げ延び一命はとりとめたものの、未だ11歳だった彼は一生拭えない心の傷を負う。そして、この事件をきっかけにジミー、ショーン、デイブの3人は疎遠に。同じ町に住みながらも、彼らが集まることは二度となかった。
そして、25年の歳月が経ち、舞台は2002年にうつる。
彼らはすっかり大人になり、それぞれの道を歩んでいた。
デイブは妻のセレステ・ボイル(以下、セレステ)との間に子宝に恵まれ、野球好きな小さな息子と平凡な毎日を送っていた。
ショーンは殺人事件を担当する刑事となるが、妻には家を出ていかれ孤独に一人生活していた。
ジミーは強盗により服役した過去を持ちながらも、今は堅実に雑貨店を営んでいた。彼の家族関係は少し複雑で、初めはマリータという女性と結婚し、長女のケイティーを授かる。しかし、マリータは若くして癌でなくなり、その後は現妻のアナベスと再婚。アナベスとの間にも2人の娘を授かり幸せな生活をおくっていた。昔から“悪ガキ”だったジミーが犯罪から足を洗った理由は一つ、そんな家族の存在だった。
各々で平凡な生活を送っていたが、とある一つの悲惨な事件が彼らを再び結びつける。
ある晩、バーで友人と飲んでいたデイブは、ジミーの娘ケイティが同じ酒場で踊っているのを目撃する。長年口をきいていないジミーの娘ケイティーとは、顔見知りではあるものの目で挨拶をする程度だった。
その日の真夜中、午前3時にデイブが血まみれの姿で家に戻る。変わり果てた姿に驚いたセレステ(デイブの妻)は「大変!どうしたの?」と問いかけるが、デイブは「強盗に襲われ、逃げようとしたら切られた。頭に血が上ってメチャクチャに奴の頭をたたきつけた」とパニックを起こす。そして、なぜだかデイブは「すぐに病院で手当てをしよう」というセレステの提案を頑なに拒むのだった。
そして次の日、「車の中がすごい血でドアが開いている」という一通の通報が警察に届いた。
そこで見つかったのは、ジミーの愛娘ケイティーが暴行を受け無残な姿で死んでいる姿だった。
あろうことにも、この事件の担当は殺人課に勤めていたショーンがすることに。
旧友の娘の殺人事件に困惑するショーンだったが、娘を殺されたジミーは逆上し警察よりも先に犯人を見つけ殺してやろうと誓うのだった。
ジミーは早速、昔の犯罪仲間でもあり手下でもあるサベッジ兄弟(ニック・バル)を使い、街中に聞き込みを始める。それに気づいた警察も、一刻も早く犯人を上げるために本腰を入れて調査に乗り出すのだったが、皮肉なことに有力な容疑者としてあげられたのはジミーとショーンの旧友、デイブだった…
最愛の娘の死に激情するジミー
刑事として旧友の娘を殺した犯人を追うショーン
容疑者として疑いを掛けられたデイブ
ケイティーの死をきっかけに、疎遠になっていた旧友3人は再び関わらざるをえなくなり、彼らの周囲までをも巻き込んだ悲痛な運命の連鎖が回り始める…
本作 『ミスティック・リバー』不遇な事件により疎遠になっていた3人の幼馴染が、殺人事件をきっかけにひとりは被害者の父、ひとりは容疑者、ひとりは刑事として再開する姿を描く。少年時代の悲痛な経験をきっかけに生まれた「苦悩」「葛藤」「嘘」「贖罪」「道理」などの狭間で揺れる人間の感情を繊細に描く。
無邪気さや素直さを備えた幼い少年たちに突き付けられる非情な現実。大人になっても尚、過去の苦しみに捕らわれ続ける人間の弱さ。避けることのできない悲痛な運命にさらされながらも「それでも必死に生きていく」人間の姿を描いている。
クリント・イーストウッド監督の独特な”答えのない”世界観で、私たちに「生きる」ことについて本気で考えるきっかけを与えてくれる、今を生きている全ての人にご覧頂きたい作品です。
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解説・レビュー ※ネタバレ含む
人はみな“闇”を背負いながら生きている

時に運命は残酷で、平等でない。
人間はみな理不尽に与えられる運命の元、心の“闇”を抱えながら毎日を必死に生きている。
本作の命名となった『ミスティック・リバー』とは、アメリカのボストンにある実在する河の名前。
もともとはワンパノアグ・インディアンの呼び名である「muhs-uhtuq」から由来し”大きな河”を意味している。
ここでは、誰しもに共通する “運命”や“性”のようなものを、川の特徴に比喩しながら考察していく。
- 波は連鎖し大きな渦を巻き起こす
- 川底に広がる闇が、あらゆる罪を覆い隠す
- 時間は止まらず流れ続ける
元々、クリント・イーストウッド監督は明確な“答え”のようなものを敢えて濁し、私たち見る者の想像に答えを委ねることが多い。そして、本作は総じて暗く、重たい雰囲気で進むが故に、行き場のないその感情が賛否を呼ぶ作品だ
しかし、私はこれを人間の“悪い”一面だけを表しているものとは思えない。
そこには一筋の希望も現れており、そんな一面も交えながら論述していく。
波は連鎖し大きな渦を巻き起こす

※ここからは本作の結末を知っているという前提で書きます。内容を知らない方はお控え下さい。
小さな町、イーストバッキンガムで起きた悲惨な事件。
何の罪もない少女ケイティーが殺されたのは偶発的な理由であり、そこには大した理由もなかった。
しかし、悲劇はこれに留まらず、残されたものの激情が更なる悲劇を生み出してしまう。
つまり、「激情したジョージが、ミスリードにより旧友のデイブを殺してしまう」というその背景にあるものこそ、本作の本質でもあり、考えるべき命題でもある。
いくつもの偶然が重なったことにより引き起こされた悲劇の連鎖。この根本にあるのは、25年前に起きた誘拐事件だった。
なぜこのような悲劇が起きたのか。そこに纏わる要因を、一つ一つ読み解いていく。
- デイブの誘拐事件
- 誘拐事件が少年たちの価値観を変える
- ケイティー殺害日、デイブも別の事件を起こす
- 挙動不審なデイブの行動が更なる不審を呼ぶ
- 裏社会にツテを持つジョージがデイブを殺害
まず 「1.デイブの誘拐事件」 について。
まだ11歳で、無邪気で素直なジミー達を待ち受けていたのは無慈悲な現実だった。
ちょっと魔が差しただけ。たまたま時間をもてあましたから行った落書きだった。そんな“いたずら”を口実にデイブは誘拐され、4日間もの長いあいだ性的暴行を受ける。そしてデイブはいつになってもこの体験が消化できず、苦しみ続ける。大人になっても情緒が不安定で“コントロール不能”なデイブを生み出したのは、言うまでもなくこの体験が原因だった。
そして「2.誘拐事件が少年たちの価値観を変える」について。
デイブの誘拐事件は、誘拐された当人だけではなく、ジミーやショーンの人格形成にも影響する。
子供なりに感じることがあったのだろう。当時、圧倒的な理不尽を前に何もできなかった彼らは、彼らなりの方法で“強さ”を身に着けていく。ジミーは裏社会にツテを持ち、自分一人で全てを解決できるだけの“暴力”を手にした。ショーンが警察になったこともこの事件がきっかけだった。(詳細は後述でも詳しく触れます)
また、ケイティーを殺された後、ジミー当人も、運命の皮肉について語っている。
ジョージ:不思議だな。人生は何気ない選択で変わる。ヒトラーは堕胎される寸前に母親が思いとどまった。分かるか?
「ミスティック・リバー」ジミー マーカム ・ ショーン ディバイン セリフ 原文ママ
ショーン:何の話だ?
ジョージ:デイブの代わりに車に乗ってたら?
パワーズ刑事:車?
ショーン:何が言いたい?
ジョージ:もし俺が乗ってたら人生は変わってた。最初の妻マリータ。ケイティーの母だ。美人だった。女王だ。ラテン系の女に多い。口説くには勇気が要る。二人とも18でケイティーができた。あの時、俺が乗ってたらマイってマリータは口説けない。ケイティーは生まれず殺されることもなかった。だろ?
そして「3.ケイティーの殺害日、デイブも別の事件を起こす」
ある意味、デイブが事件を起こしたことは必然に近い。
11歳の時に起きた誘拐事件から、デイブは子供性愛者に対して異常なほどの“恐れ”と“憎悪”を持ち続けていた。そして、彼は再び同じような犯罪現場を目撃したことで、内に秘めた怒りの衝動を抑えられなくなり子供性愛者を殴り殺してしまう。悲しい出来事ではあるが、デイブが過去を消化できない限り、もしかしたら早かれ遅かれ起きていたのかもしれない。つまり、時間の問題だったということだ。
ここでの最も不運な点は、デイブが事件を起こしたタイミングが、偶然にもケイティーが殺された日と重なってしまったということ。それがなければ、デイブが後に殺されることはなかっただろう。
そして、不幸は続く。
「4.挙動不審なデイブの行動が更なる不審を呼ぶ」のだ。
いかなる理由があろうとも、人を殺したという事実は悪であり、許されざる行為である。
しかし、デイブが正直に起きたことを話していれば、それ以上の不幸を呼ぶこともなかった。皮肉なことに、彼の挙動不審の行動は、警察だけでなく妻の不審も生み出してしまう。そして、夫(デイブ)を信じられなくなったセレステは、「デイブがケイティーを殺した」という勘違いをジミーに告白してしまう。そして、追い打ちをかけるように、デイブの発言は激情するジョージを更に逆なでする。
そして、とうとう「5.裏社会にツテをもつジョージがデイブを殺害」する。
それも、サベッジ兄弟からの情報による勘違いで。
結果的に、事件の翌朝にジョージもデイブが犯人ということは間違えだったことに気づく。そして、真実に気づいた彼は、自らの行動をひたすら悔やむのだった。
無慈悲なことに「4.デイブが挙動不審になったこと」「5.ジョージが裏社会にツテをもっている」ことのを根本的な原因は、「1.」の「25年前に起きた誘拐事件」だった。
こんなにも悲痛な運命があるのだろうか。
「因果応報」という言葉があるが、これはまさにその逆。何の罪のない不運なデイブの境遇が、回りまわって更なる悲劇を本人にもたらす。 ※因果応報:人はよい行いをすればよい報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがあるということ
こんな仕打ちをした神をデイブは恨むだろう。
確かに、子供性愛者を殴り殺した罪は、正当な方法で裁かれるべきだ。
しかし、彼はそれまで悪事を働いたこともなく、真面目に生き続けていた。
不運な境遇も人のせいにせず、25年間もひらすら苦しみ続けた。
捕まることはあっても、殺される必要などないだろう。
しかし、水面に落ちたしずくのように、偶発的に起きた一つの悲劇はやがて周囲を巻き込み更なる悲劇を巻き起こす。
時に社会は残酷で、世の中に理不尽は往々にして起きる。
「偶然に偶然が重なる」こと。これは不可避の運命のようなものだ。
真面目に生きても不運な境遇に見舞われるとしたら、我々は何を信じて進めば良いのだろうか。
本作に唯一の救いがあるとすれば、それはショーンの処遇だ。
純粋無垢な少年時代、不運な境遇に見舞われた彼らは何をすべきだったのか。
それは、少年の時に起きた悲しい事件に対し、どんなに苦しくとも逃げずに向き合うこと。
事件が起きた原因や、それを根絶することに正面から向き合い、もがき続けることなのかもしれない。
そして、それを実現したものこそがショーンだった。ショーンは、あの日何もできなかったことから、家族を犠牲にしてまでも世の中を正すことに身を費やした。だからこそ、離れた家族も正義を貫く彼のもとに戻ってきたのではないか。
今を生きる私たちがすべきこと。
それがたとえ無慈悲な運命の元であろうと、その中で自分にできることを探すこと。
困難から目をそらさずに、ただただ必死に生きていくこと。
これこそが監督のメッセージだったのではと、勝手ながら思うのです。
川底に広がる闇が、あらゆる罪を覆い隠す

人間は誰しも心に“闇”をもっている。
過去の体験に基づく「トラウマ」「罪悪感」「不安」「秘密」「後悔」もそれにあたる。
いつまでも消化することのできない“闇”を背負いながらも、私たちはそれを心の奥底に隠し生きねばならない。
まだ幼い11歳の少年、ジミー・ショーン・デイブに待ち受けていたのも非常な現実だった。
これは天からの“仕打ち”ではない。
ちょっと、魔が差しただけ。たまたま時間をもてあましたから行った落書きだった。
まさか、その“いたずら”が結果として、デイブの誘拐を招くなんて誰も考え得なかっただろう。
しかも、皮肉なことにも、いたずらに一番乗り気でなかったデイブが連れ去られてしまうなんて…
・結果的に自分の悪戯が悲劇のきっかけとなってしまったジミー
・最も中立的で、責任を問われなくても止めることもできなかったショーン
・悪いことをしていないのに、誘拐をされて大きなトラウマを負ったデイブ
彼らは、それぞれの形で傷を負い、それぞれの形でそんな理不尽に抗い生きてきた。
ジミーは自分の大切なものを守るための権力と暴力を手にした。
それは、裏社会との繋がりだった。かつては犯罪に手を染め、社会的には悪の体裁をもつジミー。と同時に、彼は家族や友人のことを誰よりも大切にしていた。そして、何よりも義理を重んじ、愛する者は全力で守り、裏切る者には制裁を与えた。その強靭な肉体からもわかるように、彼は“自分”の力で何事も解決する力を身に着けたのだった。
次にショーン。最も中立的な立場にあった彼は、“法の番人”でもある警察になった。
最も正当な方法で、真っ向から世の中の理不尽に立ち向かった。しかし、現実は甘くはない。刑務所に入る人間を捕まえては解放し、捕まえることの繰り返し。世の中の汚い面だけを目の当たりにする“殺人課”に属しながらも、無残な現実に疲弊していた。きっと、心優しく真面目なショーンの性格が裏目に出たのであろう。仕事に没頭しすぎるが故に、家族とはうまくいかず妻には縁を切られていた。
法を犯すものと取り締まるもの、まったく異なる体質をもつ2人だったが、その根本にあるのは同じこと。
デイブへの「贖罪」、そして「後悔」の念だろう。
方法は違えど、それぞれの信念のもと、それぞれの正義を貫いたのだ。
そしてデイブ。
彼は未だに過去の体験を消化しきれず、苦しんでいた。
途中、彼の胸中が読み取れるシーンがいくつか登場する。
デイブは子供を寝かしつける時、まるで自分に言い聞かせるように話し出す。

時に、その男は大人ではなかった。少年だった。狼から逃れてきた少年。闇のケダモノ。姿も見えず、音も立てず、見たことのない世界に潜んでいる。ホタルの世界。ふと目の端に光って見え、振り向くと消えてしまう世界。心を落ち着かせ理性を取り戻す。ゆっくりと眠ろう。少年は森へと帰っていく。ホタルの元へと。
「ミスティック・リバー」デイブ ボイル セリフ 原文ママ
そして、デイブは、彼の不可解な行動に思い詰めているセレステにも妙なことを話し出す。
セレステ:何見てるの?
「ミスティック・リバー」デイブ ボイル セリフ ・ セレステ ボイル 原文ママ
デイブ:吸血鬼映画。男が首を切られた。どこへ行ってた?
セレステ:川辺に車を止めて中にいたの。いろいろと考えてた。
ー 一部省略 -
デイブ:そんなことか。俺が考えてたのは吸血鬼だ。
セレステ:吸血鬼?
デイブ:死んでよみがえる。だが、いいこともある。ある日目覚めると人間のころを忘れてる。いいだろう。
そして、極めつけは最後のシーン。娘を殺したと激情するジョージにも、その胸中を吐露する。
デイブ:俺が何をした?
「ミスティック・リバー」デイブ ボイル ・ ジミー マーカム セリフ 原文ママ
ジョージ:奴の頭を水に押し付けた。神が見てる気がした。怒っちゃいない。“いけない子だ”ってな。
デイブ:俺がケイティーを?
ジョージ:デイブ 黙れ
デイブ:人は殺したがケイティーじゃない
ジョージ:強盗の話か?
デイブ:違う 車で子供を犯してた奴だ。狼だ。吸血鬼だ。
ジョージ:そいつを殺したと?
デイブ:俺と“少年”で
ジョージ:犯された子供とか?
デイブ:違う
ジョージ:“俺と少年で”と言ったろ!
デイブ:忘れてくれ 時々おかしくなる
ジョージ:セレステも お前だと。 そう思われる方がマシか?変態殺しよりも?正直に言え。
デイブ:分からない 多分俺は“少年”だった。 ケイティーは殺してない
少年の時に誘拐事件以来、いつも挙動不審で、どこか虚ろに生きているデイブ。
パニックになるといつも彼は意味深なことを話し始めるが、一部一貫しているところもある。
子供性愛者を「吸血鬼」や「狼」と、自分のことを「少年」と表現していることからも、彼が現実を受け入れ切れていないことが分かる。
つまり、彼の心は少年のように恐怖と憎悪に満ちていて、不遇な過去を「なかったこと」にしようとしている。
それが故に、同性愛者に心底からの恐怖と憎悪をもった「もう一人の自分」が表れると、コントロール不能となり、思いもしない行動を巻き起こす。
「川底に広がる闇が、あらゆる罪を覆い隠すー。」
・強靭な肉体と物腰で、“壊れた心”を隠すジミー
・警察という“正義”の呼称を身にまとい、“理不尽”に立ち向かうショーン
・弱々しくも、止めることのできない“狂気”を内に秘めるデイブ
「罪」「不安」「秘密」 「後悔」
彼らも皆、人に話すことのできない闇を心に隠し必死に生きていた。
過ちを起こさぬ人も、傷を負わぬ人もいない。
それがいかなる形であろうとも、人は誰しも自分なりの苦しみの中でもがいているのだ。
それでも時間は流れ続ける

そして、本作では度々「時間」が命題に上がる。
何度も登場する「罪悪」や「葛藤」のような感情と「時の流れ」が融合し、25年前から止まり続けている少年たちの時間と、それでも流れ続ける現実の時間について触れている。
最も印象的なシーンが、ジョージが罪を犯したを翌日に、デイブを探すショーンと話しているシーンだ。
ショーン:セレステから電話が。デイブが消えた 君が知ってるかと。彼と話がある。市警がバーの裏で男の死体を発見した
「ミスティック・リバー」ジミー マーカム ・ ショーン ディバイン セリフ 原文ママ
ジョージ:男の死体だと?
ショーン:子供性愛者だ。前科もある。市警がデイブを探してる。 ジミー。 最後に彼を見たのは?
ジョージ:デイブを見たのは…
ショーン:ああ いつだ
ジョージ:デイブ・ボイル
ショーン:ああ ジミー デイブだ
ジョージ:25年前 この通りを車で去っていった(25年前にデイブが誘拐された道路を指さす)
ショーン:ジミー 何をした?
ジョージ:よく犯人を挙げてくれた。遅かったがな。
ショーン:セレステにも毎月 金を送るか? たまに思う。 みんな車に乗ってて… これが全部夢だったらとジョージ:夢か
ショーン:本当は俺たちはまだ11歳の少年で 穴蔵の中で逃げたらどうなるかと思ってる
ジョージ:そうかもな 知るか(酒を飲みながら立ち去る)
強烈な“罪悪”や“後悔”の体験は、人を苦しめ一生脳理に焼き付ける。
彼ら2人もまた、デイブを救えなかった自分を悔やみ、大人になった今でもこれ日を“なかったこと”にできたらと願っている。
そして今、ジョージはもう一つの罪を犯した。
自らの勝手な思い込みにより、罪のないデイブを殺害した。
罪に罪を重ね、またもや“止まろう”としているジョージに、妻のアナベスは語り掛ける。

ジョージ:デイヴを殺した。殺して河に沈めた。罪のない男を殺してしまった。元には戻せない。
「ミスティック・リバー」ジミー マーカム ・ アナベス マーカム 原文ママ
アナベス:ジミー。心に触れさせて。 ゆうべ娘たちを寝かす時あなたの心の話をした。どれほどケイティーを愛してたか。だって父親だから。あの子を愛する心が大きすぎて破れそうで心配だった。 “あなたたちもそれほど愛してる”って。“心が4つあってすべて愛に満ちているから心配ないわ”って。“愛する人のためならパパは何だってする。それはいつも正しい。決して間違いはない。どんなことをしても”って。 あの子たち安心して眠ったわ。
ジョージ:“ゆうべ”って… 知ってたのか?
アナベス:セレステから電話が。デイヴを心配してた。あなたにした話を私にも。自分の主人を疑って人に言うなんて。
ジョージ:止めようとは?
アナベス:あの子たちに言った通りよ。“パパは王様なの。王様はそれがどんなに難しくても必ずする。パパは愛する者のためなら何でもする。それが大切なのよ” だってみんな弱いけど私たちは違う。私たちは弱くない。 あなたはこの町の支配者なの。あとで娘たちをパレードへ。ケイティーも喜ぶわ。
この言葉には、多くの賛否両論があるだろう。
アナベスの言動は「罪の正当化」そのものであり、世の中としては間違っている。
しかし、違う見方もある。
たとえこれが世の中的に誤った道理だとしても、ジョージの家族の立場から見ればこれが“正義”とも“強さ”とも感じられる。誰かの血が流れた結果生まれた結果であっても、近しいものの幸せのためであれば享受して生きる。社会の倫理には収まりきらない、生々しい人間の姿がそこにはあった。
事実、アナベスの話を聞いたジョージの表情からは、迷いが消え、強い決意の意志すら感じられる。
このように、三人の男の物語は、彼らの妻の在り方こそが、彼らの人生の象徴的なものとして表現されている。
・自らの夫(デイブ)への不審に耐えられず、自らの夫こそが犯人であると告白するセレステ
・夫(ジミー)が犯した罪を真っ向から肯定し、「家族を守るために街の主になれ」と諭すアナベス
・家族をないがしろにした夫に愛想をつかせて家を去るも、機を待ち続けて“より”を戻したショーンの妻
この中で、ジョージとアナベスだけが明らかに異質で、世の常からも逸脱している。
しかし、ジョージとアナベスは、十字架を背負い前を向くことを決めた。
どんなに悔やもうと、どんなに時間を戻したくても、「それでも生きていく」という事実だけは変わらないからだ。
そして、物語は終焉を迎える。そこには、それぞれの思いを内に秘めパレードを眺めるそれぞれの家族の姿があった。

・行方がわからない夫を待ちながらも、不安そうな表情で子どもに必死に手を振るセレステ。
・背中に大きな十字架を背負いながら、強い決意のもとにただ平然と前を向くジミーとアナベス。
・事件の“真相”を知りながらも、それを隠して、よりを戻した妻と幸せそうな時間を過ごすショーン。
目の前で流れている明るいパレードとは裏腹に、彼らはそれぞれの十字架を背負い生きていくのだ。
「不安」「恐怖」「疑心」「憎悪」「狂気」
本作では、今にも壊れそうな人間の繊細な感情と、理不尽な社会や残酷な運命を前に「生きていく」人間たちの強さを見事に描いた。
人は誰しも過ちを犯し、心の“闇”に苦しみ続ける。
しかし、それでも私たちは生きていかねばならない。
流れ続ける川のように、時間もまた止まることなく流れ続ける。
受賞歴
アカデミー賞(2004)
主演男優賞・助演男優賞
ゴールデングローブ賞(2004年)
主演男優賞・助演男優賞
その他受賞歴
全米映画俳優組合賞・放送映画批評家協会賞・ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞・ロンドン映画批評家協会賞・ブルーリボン賞外国作品賞・全米映画批評家協会賞・セザール賞最優秀外国映画賞 等
賞が多すぎてどれがすごいのかわからない….」という方はこちら!
👉 映画賞ってどれがすごいの?
クリント・イーストウッド監督の別作品
映画監督:クリント・イーストウッド
・2019年:運び屋(監督/製作/出演)
・2018年:15時17分、パリ行き(監督/製作)
・2016年:ハドソン川の奇跡(監督/製作)
・2015年:アメリカン・スナイパー(監督/製作)
・2014年:ジャージー・ボーイズ(監督/製作)
・2012年:人生の特等席(製作/出演)
・2012年:J・エドガー(監督/製作)
・2011年:ヒア アフター(監督/製作/音楽)
・2010年:インビクタス 負けざる者たち(監督/製作)
・2009年:グラン・トリノ(監督/製作/出演)
・2009年:チェンジリング(監督/製作/音楽)
・2006年:硫黄島からの手紙(監督/製作)
・2006年:父親達の星条旗(監督/製作/音楽)
・2005年:ミリオンダラー・ベイビー(監監督/製作/音楽/出演)
・2004年:ミスティック・リバー(監督/製作/音楽)
・2002年:ブラッド・ワーク(監督/製作/出演)
・2000年:スペース・カウボーイ(監督/音楽/出演)
・1999年:トゥルー・クライム(監督/製作/出演)
・1998年:真夜中のサバナ(監督/製作)
・1997年:目撃(監督/製作/出演)
・1995年:マディソン郡の橋(監督/製作/出演)
・1993年:パーフェクト ワールド(監督/出演)
・1992年:許されざる者(監督/製作/出演)
・1991年:ルーキー(監督/出演)
・1990年:ホワイトハンターブラックハート(監督/製作/出演)
・1998年:真夜中のサバナ(監督/製作)
・1997年:目撃(監督/製作/出演)
・1995年:マディソン郡の橋(監督/製作/出演)
・1993年:パーフェクト ワールド(監督/出演)
・1992年:許されざる者(監督/製作/出演)
・1991年:ルーキー(監督/出演) 等…
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