映画『運び屋』あらすじ・解説・レビュー

こんな方へ
・日々仕事に忙殺されている人
・大切な存在がいる人
・取り返しのつかないことをして後悔している人
〔 こんな方は控えてください… 〕
・淡々とした映画が嫌いな人 ※アクションではありません
本サイトでは気分や目的別にカテゴリー分けをして作品をご紹介してします。他の作品も是非ご覧下さい

作品情本・あらすじ
- 作品名(原題):運び屋(THE MULE)
- 制作年度:2018年
- 上映時間:116分
- 監督(制作国):クリント・イーストウッド(アメリカ)
「伝説の運び屋」と呼ばれた老人を描いた驚愕の実話
2005年、イリオイ州ピオリアで農園を営み花(デイリリー)を栽培するアール・ストーン。
彼の花は品評会でも評価され多くの人たちから求められますが、アールは仕事に没頭しすぎるがあまり家族のことはないがしろに。ついには、娘アイリスの結婚式の日まで忘れてしまい、家族にも愛想をつかれているのでした。
そんな中、12年の時が経ち2017年。インターネットが普及しECが栄えてきたことで、アールたちは経営破綻し、ついには農園を手放すことになります。
没頭していた仕事を失い、手持ち無沙汰になったアールは孫娘ジニーの結婚前パーティーに顔を出します。すると、家族を気にも留めないアールに憤りを感じていた妻のメアリーに追い出され、口喧嘩の末にアールは会場をあとにします。
すると、口喧嘩のふとした会話の中で出た「アールが何十年もの間、無事故・無違反だった」という会話を聞いた1人の男が「あんたにピッタリの仕事がある」と声をかけてきます。怪しい勧誘をかわそうとするアールでしたが、男はダメ元で仕事の連絡先をアールに渡します。
時間を持て余し、金に困っていたアールは興味本位で指定されたタイヤ工場を訪れます。
そこには、見るからに柄の悪い男が数名。彼らの威圧的な態度にも一切の動揺を見せず会話するアールを「イカれている」と言いながらもアールの車に荷物を詰め込みます。
仕事の依頼内容はいたってシンプル。指定された場所にその荷物を運ぶだけ。
そして、同時に「荷物の中身を覗かない」という約束を突きつけられます。
怪しい依頼を疑いながらも荷物を引き受け、指定されたモーテルに荷物を運ぶアール。
すると、報酬として信じられないような大金を手にするのでした….
本作『運び屋』は2018年に公開されたアメリカ映画。巨匠クリント・イーストウッドが主演・兼監督を務める。本作は、80代で麻薬の運び屋となり、第二次世界大戦の退役軍人でもあるレオ・シャープの実話を元にしている。老若男女に問わず犯罪が蔓延るアメリカ社会の裏面を重たさを感じさせない軽快なテンポで表現されている。「仕事」と「家族」、人生の”優先順位”を間違えた老人が「本当の幸せ」に気づくまでの姿を繊細に描く。仕事の没頭している人にほど見てほしい作品です。
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解説・レビュー ※ネタバレ含む
”最高の愚か者” アールから学ぶべきこと
人は見たいものだけを見て生きている

本作は、麻薬の運搬役という犯罪に手を染めながらも、自身の過ち(家族との関係を)を清算しようとする老人の姿が描かれている。
一見、仕事に没頭するあまり娘の結婚式すら忘れるような男が、徐々に考えを改めて行き家族との関係を修復していく姿には感銘を受ける。家族のためにはリスクを請け負いひたすらに動き回る姿にもだ。
しかし、本作にはある種の違和感を感じてならない。
素直に感動したい気落ちの反面、それに歯止めがかかる気持ちが半分。
その違和感こそ、本作の深みでもあり、私たちも考えさせられるポイントだ。
彼は、過ちを清算するために過ちを起こすのだ。
どんなに立派な背景があろうと、麻薬の運搬は立派な犯罪だ。
これは言葉の問題ではなく、人間を不幸にすることにつながる行為だ。
麻薬を手にする子供達だけではない。その人たちの家族、友達など、多くの人間の人生を壊す。
本作には、そういった運び屋としての悪の一面には一切触れず、アールの視点のみを描いている。現実と一緒だ。都合の悪いものは蓋をすれば見ないで済む。
犯罪組織はそういった「間接的」な仕組みを巧妙に使い多くの人間を犯罪に巻き込む。「直接的」に関わっていないことに安心する人間の心理をわかっているのだ。
作品関係者は語る。
彼にはナイーブなところと冒険好きなところがあると思う。まるでロビン・フッドみたいだ。違法なことで金を稼いでいるが、困っている人を助ける慈善家でもある。
クリント・イーストウッド監督 インタビュー
清算することだと思う。過去の過ちを清算する男。過ちのために報いを受け、自分で安らぎを見つけようとする。彼の生き方に対する報いでもある。
ブラッドリー・クーパー インタビュー
そう、違和感の正体は正義のために悪をするという矛盾だ。
そういった意味では、同監督の作品『許されざる者』と似た一面を持つ。人は大義さえあれば悪魔にもなれる。👉 映画『許されざる者』あらすじ・解説・レビュー
一番恐ろしいことは、アールが「悪意なく」犯罪に手を染めることができるということ。
つまりこれはアールにとって悪ではない。そして、自分を重宝してくれる仲間に対して居心地の良さすら感じてしまっている。
アールは途中で中身が薬物であることを知り、これが犯罪だと気づいていた。むしろ、確信したのが途中なだけで、これが”良い”仕事であろうとは初めから思っていなかっただろう。
ただし、その時点で抜けることは不可能だった。大金を手にすることで、大きな壁があった家族との関係も修復できた。アールの開き直りっぷりには爽快感すら感じてしまう。鼻歌を歌い薬物を運び、犯罪仲間と冗談を交わし合い仲良くなってしまうほどだ。組織のボス、ラトンの招待も受け入れ心置きなくその空間を楽しむ。
ダイアン・ウィーストもこのように言っている。
たぶん彼は、わかっていないのね。クリントが言ったとおりだわ。目先の必要性だけを見て、他のことを遠ざけてしまう。正しいか、間違えか、どれほど危険か考えない。報酬があまりにも大きくてすぐもらえるから。そして与える素晴らしさも心地いい。彼は人生を通して、家族に与えたかったのだと思う。
ダイアン・ウィースト インタビュー
当然こんな夢物語は続くはずはない。
アールは最終的に罪を認めたとはいえ、ばれなかったやり続けていただろう。
しかし、時は既におそし。やめられなかった。
捕まった後のアールの表情や裁判所での返事が物語っている。彼は、罪を認めた。運び屋としての罪だけでなく、まるで人生そのものの罪を認めるかのように潔かった。
人は愚かだ。
本作でも家族がテーマとなっているように、人は一人で幸せになることはできない。
なのに、自分主導でしか考えることができないのだ。
見たくないものを見ないことができる。
都合の悪いものを忘れることができる。
そして、そんな自分に気づいていないのは自分だけだ。
自分のことを客観視することは簡単でない。しかし、周囲とのあり方を考えない限り、周囲も自分に与えてはくれない。
私たちはアールの姿を見て何を感じるべきでしょうか?
私たちも、一つ目線を変えるだけで何か新しいものが見えてくるかもしれません。
”今”は永遠には続かない

また、本作では2つのメッセージを出している。
ひとつは、学ぶことに歳は関係ないということ。
クリント・イーストウッド監督は下記のように話しています。
映画に流れるメインテーマは、学ぶことに年齢は関係ないということだ。年をとっても学べる。そうしながら、人に教えることもできる。
クリント・イーストウッド監督 インタビュー
主人公のアールは、まさに”時代遅れ”の人間であることを象徴するような人間だ。
農園や機械の修理などアナログのことは器用にこなす反面、携帯やインターネットにはめっぽう弱く、使おうとする意志すら見えない。また、この時代になっても人種差別の言葉を平気で使う姿がそれを尊重している。
家族への対応もそうだ。アールは、決して家族を大切に思っていないわけではない。ただし、仕事の世界で成功を収めることやお金をしっかりと稼ぐことが家族の幸せだと思い込んでいる。結局、家族に何を言われようとも仕事が破綻するまで自らの過ちにも気付かない。
そんな”頑固ジジィ”の象徴のような存在のアールも人生の終焉に近づいた90歳になりようやく、人の笑顔や出会いをきっかけに少しづつ変わり始める。ずっと蔑ろにし続けた家族との時間を取り戻そうとし始めるのだ。
そもそも、私たちは子供の時から全てを学び、成長してきたはずだ。
しかし、大人になるとこれがなかなか難しい。子供の時は何でも柔軟に吸収してきたはずなのにそれができない。老人となれば尚更だ。
私たちは生きてきた過程で多くの”事例”を経験する。嬉しかったこと、辛かったこと、成功したこと、失敗したこと。そんな一つ一つの学びの事例が鎧のように身に纏っていき、いつの間にか動けなくなる具体の重さになり、それを外すこともできなくなる。
人は”後悔”をよく話す。まるで自身の武勇伝かのように自慢げに語る。
しかし不思議なことに、二度と取り戻せない”過去”の反省はすることができるのに、今すべきことを話せる人はほとんどいない。
そして、未来になって初めて、過去となったその”今”を後悔として話す。
脚本家のニック・シェイクは話している。
<デイリリーが象徴するもの>
ニック・シェンク(脚本家) インタビュー
この映画でデイリリーが重要なのは、その多くが1日しか咲かないからだ。もし人間なら、2度目のチャンスは大きな意味をもつ。2度目の人生をどう生きるか。2度目のチャンスを得た意味は何だろう。その時間に何をするのか、そのチャンスをどう生かすのかが、鍵となる。
そう、人は幾つになっても学ぶことはできる。しかし、チャンスはそう何度もやってこない。気づいたその”瞬間”に変わらなければ、二度と取り戻せなくなるかもしれない。私たちが変わるのを待ってくれているほど現実は甘くない。
アールは、変わることが少し遅かったのかもしれない。大切な存在を失ってからでは、もう遅いのだ。
もう一つのメッセージ、それは「人は、永遠には走れない」ということだ。
『運び屋』には、時間という誰にも共通するテーマがある。人は、永遠には走れない。「アールは、自分の家族を幸せにできていないことを知っていて、もう一生、許してもらえないかもしれないと気づいている。それは猛烈な一撃だ。私たちはいつも、まだ時間があると考える。だが、ないのかもしれない。あるのかもしれない。アールにさえ、あるのかもしれない」と結んでいる。
https://qetic.jp/film/hakobiya-191231/306033/
私自身も少なからず感じたことのあることだが、人は身近なものほど後回しにしてしまう。例えそれが一番大切だったとしても、近くにあるものは後でどうにでもなると考えてしまう。人は傲慢なのだ。
しかし、今は永遠に続かない。予期せぬ時に、タイムリミットはやってくる。
日々一刻と時間は確実に進んでいく。残された時間がそう長いとも限らない。それは自分であっても、大切な存在であっても…
結びにあるように、大抵の人はいつまでも時間があると思っている。時間が有限であることは理解していても、その事実から目を反らして生きている。
私たちも一緒ではないか。今に一生懸命になることは良いことだ。
しかし、何かに夢中になるがあまりに人生の本質から目を逸らすこともある。
幾つになろうと、私たちは気づいた瞬間に変わることができる。
取り戻せない時間を後悔しないために、人生の中で本当に大切なものは何かを改めて考えさえられます。
特典映像:「運び屋」関係者インタビュー
本作は撮影を終えた出演者やスタッフの特典映像が用意されています。
「主演(アール・ストーン) 兼 監督」クリント・イーストウッド監督(3分18秒)
「脚本家」脚本家 ニック・シェンク インタビュー(1分44秒)
「コリン・ベイル捜査官役」ブラッドリー・クーパー インタビュー(2分6秒)
「トレビノ捜査官役」マイケル・ペーニャ インタビュー(2分6秒)
「アイリス役」アリソン・イーストウッド インタビュー(6分6秒)
「ラトン役」アンディ・ガルシア インタビュー(1分58秒)
「メアリー役」ダイアンイースト インタビュー(5分35秒)
特典映像 まとめ編
如何でしたか?
何と言っても、クリント・イーストウッド監督の引き出しの多さには脱帽ですね。
下記にも、同監督の作品は多々紹介しています。本作が気に入った方には合う作品も多くありますので、是非イーストウッド劇場にどっぷり浸かって下さい。
クリント・イーストウッド監督の別作品
映画監督:クリント・イーストウッド
・2019年:運び屋(監督/製作/出演)
・2018年:15時17分、パリ行き(監督/製作)
・2016年:ハドソン川の奇跡(監督/製作)
・2015年:アメリカン・スナイパー(監督/製作)
・2014年:ジャージー・ボーイズ(監督/製作)
・2012年:人生の特等席(製作/出演)
・2012年:J・エドガー(監督/製作)
・2011年:ヒア アフター(監督/製作/音楽)
・2010年:インビクタス 負けざる者たち(監督/製作)
・2009年:グラン・トリノ(監督/製作/出演)
・2009年:チェンジリング(監督/製作/音楽)
・2006年:硫黄島からの手紙(監督/製作)
・2006年:父親達の星条旗(監督/製作/音楽)
・2005年:ミリオンダラー・ベイビー(監監督/製作/音楽/出演)
・2004年:ミスティック・リバー(監督/製作/音楽)
・2002年:ブラッド・ワーク(監督/製作/出演)
・2000年:スペース・カウボーイ(監督/音楽/出演)
・1999年:トゥルー・クライム(監督/製作/出演)
・1998年:真夜中のサバナ(監督/製作)
・1997年:目撃(監督/製作/出演)
・1995年:マディソン郡の橋(監督/製作/出演)
・1993年:パーフェクト ワールド(監督/出演)
・1992年:許されざる者(監督/製作/出演)
・1991年:ルーキー(監督/出演)
・1990年:ホワイトハンターブラックハート(監督/製作/出演)
・1998年:真夜中のサバナ(監督/製作)
・1997年:目撃(監督/製作/出演)
・1995年:マディソン郡の橋(監督/製作/出演)
・1993年:パーフェクト ワールド(監督/出演)
・1992年:許されざる者(監督/製作/出演)
・1991年:ルーキー(監督/出演) 等…
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